アジアではクモノスカビやケカビ、日本では古くから黄麹菌が酒造りに使われてきたのに、なぜ、沖縄だけが黒麹菌なのでしょうか。
それは亜熱帯海洋性気候と呼ばれる温暖で多湿な沖縄の気候風土に大きく関係しています。
黒麹菌は酒の製造過程でクエン酸を大量に生成するため、ほかの麹菌に比べてもろみ(米麹に水と酵母を加えてアルコール発酵させる段階)の酸度を高くすることができ、雑菌による腐敗を抑えることができるという大きな特徴があります。
温暖多湿の沖縄は、さまざまな菌にとっても繁殖しやすい環境でもあります。酸度の弱いもろみだと、空気中に浮遊する腐敗菌に負けて、もろみが腐ってしまう危険性も高いのです。
このような風土である沖縄で酒を造る際に、黒麹菌が最も適していることを沖縄の先人たちは長い経験の中で習得していったに違いありません。
この黒麹菌の強さは、黄麹菌を使って造られる日本酒の製造工程と比較すればより明らかです。
黄麹菌を使った酒造りでは乳酸菌が生成されますが、酸度が低いため、ときには乳酸菌を添加して雑菌の繁殖を防ぎます。しかし、黒麹菌の出してくれるクエン酸には及ばないので、日本酒造りは雑菌の少ない冬の時期に、それも作業場には基本的に関係者以外入れず、徹底した雑菌対策を施したうえで行われています。
醸造酒と蒸留酒という大きな違いはありますが、それでも泡盛の酒造所で見る酒造りとはかなり雰囲気が違うものです。泡盛を年中造ることができるのはやはり黒麹菌の力によるところも大きいと言えるのではないでしょうか。
また、黒麹菌は、原料である穀物のでんぷん質を糖化する酵素の力がとても強いことも特徴です。つまり、お酒そのものの収量を増やしてくれる菌でもあるのです。
さらに、黒麹菌を使った酒ならではの香りや風味も楽しめます。泡盛が泡盛らしい味わいを出すために、黒麹菌は大きな役割を担っているのです。
記事提供:沖縄県酒造組合